· 

人材育成に活かす「リスキリング(Reskilling)」~企業の持続的発展に不可欠な学び直しとは~

仕事の未来レポート 世界経済フォーラム 2020年

労働力は予想よりも速く自動化され、今後5年間で8,500万人の雇用が失われています。

ロボット革命は9,700万人の新規雇用を創出するが、混乱のリスクが最も高いコミュニティには企業や政府からの支援が必要です。

最も競争力のある企業は、現在の従業員の再教育とスキルアップを選択する企業です。

今後5年間に現在のポジションに留まることができている労働者のうち50%はリスキリング(学び直し)を必要とすると考えられます。

 

リスキリング(学び直し)とは何か

時代の流れを見据えて、今後必要とされるスキルや知識を、新たに獲得する教育のことです。

リスキリングとは、英語では「Reskilling」であり、スキルを付け直すこと、学び直すことと表現されます。2021年に経済産業省が発表した資料によると、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。

 

リスキリング(学び直し)が求められる背景

仕事に求められるスキルの変化の背景は、キャッシュレス決済、ウェブサイトからの問い合わせ・・・例を挙げればきりがありません。仕事のデジタル化やAI活用が進んでいる中で、新しいスキルを必要とする職種も生まれる一方で、失われる仕事もあります。

現段階でもデジタルスキルは重要ですが、これらのスキルも現状のものであり、今後も急激に変化していくことが予想されます。

リスキリングによって「学び続ける仕組み」を整えていくことが、企業の存続にとっても重要になってきます。

 

また、生産性向上の課題という観点でも、日本人の給料がここ30年横ばいという問題が指摘されますが、その要因の一つとして考えられるのが中小企業のDXの遅れに伴う生産性の低さが指摘されています。ITツールを導入したくてもそれを使いこなせる人材がいないという悩みを抱えている中小企業は少なくないと思います。DXはコンピュータやAIを活用することで、作業時間の短縮や人件費削減、業務の正確性向上などが期待できます。

社内の既存社員に「リスキリング」を通して、DXスキルを身に付けてもらおうとする風潮が強くなっています。

 

さらに定年延長化に伴い長期化する職業人生を背景に学び直しの必要性が高まっています。

21年4月に高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今は努力義務であっても年金の支給年齢の引き上げに連動して義務化される可能性もあります。もしそうなれば、大半の人は20歳前後から70歳まで約50年間働くことになります。どの職種であれ、50年間同じスキルで働き続けるのは難しいでしょう。

テクノロジーの進化に伴い自分の持つスキルの陳腐化は早まります。長い間仕事を続けるために、新たなスキルを身につけなければならないのです。

 

加えて中小企業は、人材マネジメントに関する対応が弱い印象があります。目の前の業務に無我夢中で対応するばかりで、人を成長させるための投資や取り組みが疎かになっているのではないでしょうか。

たとえ、その必要性に気づいたとしても、場当たり的な集合研修に終始し、効果のある育成につながっていない企業が多いようです。中長期的なビジョンに基づいた人材戦略の立案も大きな課題です。

変化の激しい現在において、上司・先輩の持つスキルを伝承する指導に頼っていては、その対応に後れを取ってしまう可能性があります。

また、職業人生の長期化を考えれば、50年間同じスキルで働き続けるのは難しいでしょう。

リスキリングやリカレント教育など、就職しても学び続けることで、自分自身のキャリアの充実を図り、今後のビジネスモデルの変化や技術革新にも対応する準備を進めていくことが求められます。

 

リカレント、アンラーン等との違いについて

リカレント教育とは、社会人になった後も、必要なタイミングで教育機関や社会人向け講座に戻り、学び直すことを指します。学んだことを仕事に生かし、会社の成長や自分の出世・昇給・転職など、より具体的な目標を伴います。新しいことを学ぶために「職を離れる」ことが前提になっています。

また、生涯学習とは、年をとっても勉強を続ける、という点は共通していますが、生涯学習は日々の暮らしの生きがいを目的とする時に使われます。学ぶ内容についても、生涯学習は趣味やスポーツも含まれます。

「ラーン=Learn(学び)」が自分の知らない新しい知識を身につけることを意味するのに対し、アンラーンはこれまで学んだ知識をいったん破壊し、常識という思い込みの壁を取り除くことです。それまで自分が身につけてきたものを打ち壊し、まっさらな状態で新しい学びを受け入れることができます。

 

リスキリングは単なる「学び直し」ではない

昨今の「学び」への注目のなかには、個人が関心に基づいて「さまざまな」ことを学ぶこと全体をよしとする言説が多いが、リスキリングは「これからも職業で価値創出し続けるために」「必要なスキル」を学ぶ、という点が強調されます。

リスキリングに類似の言葉に、アップスキリング、アウトスキリングという言葉もあります。

 

リスキリングがもたらすメリット

 

「業務を効率化できる」

データ活用のスキルを身に付け、これまで検討や調査にかかっていた時間を短縮し、他の業務に使える時間が増えるなど、リスキリングで習得したスキルによっては、業務の効率化につながります。

少ない時間で質の高い仕事ができると、残業や休日出勤が減り、従業員のワークライフバランスの実現も期待でき、業務効率化・生産性向上にもつながります。

また、ルーティンワークを自動化し残業時間を削減したり、その空いた時間をより戦略的な業務に充てたり、など様々なメリットが期待出来ます。

 

「アイデアが生まれやすくなる」

リスキリングを実施することで、従来では思いつかなかった革新的なアイデアを生む可能性が上がります。

従業員が新しいスキルを習得すると、業務の捉え方や考え方が変化し、アイデアが生まれやすくなります。独創的な発想を取り入れたり、業務の進め方を新たな形にしたりするなど、社内に良い変化を生み出せるでしょう。

 

「自社の業務に還元しやすい」

社内でリスキリングに取り組む大きなメリットとして「会社に還元してもらいやすい事」が挙げられます。

社内文化や業務フローに詳しい既存社員を対象に実施するため、リスキリングで身に付けたスキルを社内に応用させやすくなります。DX人材を外部から採用する場合にはない、リスキリングならではのメリットと言えるでしょう。

これまで培ってきた企業理解と新しいスキルを融合することが可能となり、その姿を見た経験の浅い人材をリスキリングに巻き込みやすくなり、さらに取り組みを進めていくことにも期待が持てます。

 

「従業員の働き甲斐の創出」

自社の従業員がスキルアップを図ることで、従業員自身が成長することによる、職場満足度の向上や、従業員自身の職業人生がより豊かなものなることによって、働き甲斐の創出にもつながります。

 

「Z世代は学習意欲が非常に高い」

ある調査では「若い社員のモチベーションを高めたいのであれば、キャリアの成長に焦点を当てるべきである」と述べています。

Z世代にあたる18~24歳の学習者の大多数(76%)は、学習がキャリア成功の鍵と考えています。パンデミックにより、若い学習者はこれまで以上に学習に力を入れているのです。

こうした若い学習者は「根っからのキャリア志向」であり、現在の仕事で活躍する、あるいは異なる職能で働く、または社内の新しい職務で働くためのスキルを身につける目的であれば、他のどの世代よりも学習に時間をかけるだろうと、洞察しています。

 

リスキリング(学び直し)の進め方

いきなりリスキリングを実施すると発表しても、何をするのか、何が変わるのかがわからない従業員は混乱してしまいます。もし実施できたとしても、現場の声と合わない内容では十分な効果は得られません。

リスキリングを導入するためには、まず社員の声を取り入れましょう。業務で困っていることや改善したいことから必要なスキルを導き出せば、効果的なプログラムやコンテンツでリスキリングを実施できます。

リスキリングがどのようなものかわからない社員に対しては、説明会やミーティングなどで説明する機会を設け、協力して取り組める体制を整えましょう。

 

リスキリングを進める際の留意点

 

「アウトソーシングを活用する」

リスキリングは、教育に活用するコンテンツやプログラムを使用することが多いですが、自社開発しなければならないと誤解している企業が多いようです。

デジタル技術に強い企業でないと内製は難しく、その時点でリスキリングを断念してしまうケースがあります。

実際は、コンテンツを社内開発しなければならない決まりはなく、アウトソーシングを活用するのが効率的です。社内開発に時間がかかったり、完成したものの質が低かったりする心配が少なく、費用と時間を節約してリスキリングを実施できます。

自社で行いたいリスキリングとの相性は重要なので、習得させたいスキルを参考に、最適なコンテンツを提供している外部サービスや専門家を活用しましょう。

 

「継続的に取り組める仕組みをつくる」

一度の研修やコンテンツ学習では、スキルがしっかり身に付かないケースもあります。そのため、単発で終わるのではなく、継続的に取り組める仕組みづくりが重要です。

プログラムづくりも大切ですが、従業員のモチベーションをマネジメントする必要があります。目的が曖昧だったり、上手く習得できなかったりすると、意欲が低下する可能性が高いです。

リスキリングを行う目的を明確にしたり、インセンティブを設定したりすると、取り組む意味が見いだされ、スキル習得までリスキリングを実施しやすくなります。

 

最後に

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。‐チャールズ・ダーウィン‐