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深刻化する人材不足の背景には何が!?

「イクメン」や「イクボス」「女性活躍社会」、そして「働き方改革」等々・・・これら近年の国や県・市の労働政策のキーワードの背景には、深刻化する人材不足という社会状況があります。企業が生産・販売活動を行う場合、どれだけITやIoT、AIを活用しても、それらを扱う「人」が必要であり、その採用や育成には多大なコストと時間がかかるのです。

今回は、そうした人手不足と新規学卒者の採用難の社会的背景をお話をしたいと思います。

 

1.就業人口を増やすために

 

図は総務省統計局が発表している毎年10月1日現在の人口構成図(人口ピラミッド)です。真ん中の「生産年齢人口」は年を追って減少しています。現在は第一次ベビーブームに生まれた、いわゆる「団塊の世代」が大量退職の時期を迎えていますが、この世代の子供たち(第二次ベビーブーム世代)は現在50歳近くなり、やがて大量退職期を迎えることは明らかです。

 

これに対して、今後生産年齢の中核を担っていくはずの30代、20代は先細り、10代に至っては第二次ベビーブーム世代の半分程度しかいません。このまま進めば、年金や健康保険などの社会保障制度が崩壊するのは明らかです。そのため政府は必死になって生産年齢人口、とくに実際に社会保障費の担い手となる「就業人口」を増やそうとしており、それが「一億総活躍社会」や「働き方改革」というキャッチフレーズで表現される各種の政策になっているのです。

 

さて、就業人口を増やすためにまず一番単純なことは、現役で働ける期間を延長すること。つまり「再雇用」や「定年延長」といった施策です。年金支給開始年齢の引き上げと併せて進めてきたこうした施策によって、60歳以上で働いている労働者の数は着実に増加しています。

 

次に必要なことは、これまで主婦としてもっぱら家庭を守ってきた女性を「就業人口」の中に加え、社会保険料の負担者となってもらうこと。このために「女性活躍社会」を提唱し、女性が働きやすい社会をつくろうとしているのです。

 

そして究極の目標は将来の生産年齢人口を増やすこと。すなわち出生率を高めることです。しかし現在の日本では「合計特殊出生率」の減少が止まらず、2005年には過去最低である1.26まで落ち込んでしまいました。その後は微増傾向が続いていましたが、2019年には1.36となって現在に至っています。

 

こうした傾向に歯止めをかけるため、政府は女性の出産・育児の負担を軽減し、出生率を高めるという政策を進めています。そのためのキーワードが育児に理解のある夫(イクメン)であり、上司(イクボス)です。こうした様々な社会政策(働き方改革)を組み合わせながら就業人口を増やし(一億総活躍社会)、社会保障費の負担者人口を確保しようとする流れが今日の状況だと思います。しかし高齢者、女性の就労人口を増やすのにも限りがあります。そのため政府は本格的に外国人の在留資格制度を変更し、事実上の外国人労働力の導入に向けて大きく舵を切ったことは、皆さんもご存じの通りです。 

 

 

2.新規学卒者求人難と高い離職率

 

日本の若者の現状について考えてみましょう。日本の人口ピラミッドを見てもわかる通り、20代の若者の人口はずいぶん少なくなっています。その少ない若者たちが、現在高校や専門学校、短大や大学などの教育機関を卒業して、いわゆる「新規学卒求人」の対象となる年齢層なのですが、ここで深刻な問題が持ち上がっています。すなわち、そもそも採用ができない「求人難の深刻化」と、せっかく採用した人材がすぐに離職してしまう「離職率の上昇傾向」です。具体的には高校卒では4割近く、大学卒でも3割以上が3年以内に離職しています。

 

とくに大学生と違ってアルバイトなどの就労経験の少ない高校卒の新人は、せっかく採用しても3人に1人は3年以内にやめてしまいますから、「人材育成のしようがない」という現場の声は深刻です。なぜなら採用から数年間は「仕事を覚える」ための期間であり、企業にしてみれば利益への貢献よりも育成のためにかかるコストの方が多い、いわゆる「マイナスの利益」の時期なのです。企業はこの時期を必要なコストと考え、将来会社の担っていってくれる人材を育てるために投資しているわけで、それが回収できる以前にやめてしまわれたのでは、費用だけで利益のない、まったく「赤字」状態なのです。

 

 

 

れでは、なぜせっかく採用した新規学卒者がすぐに離職してしまうのでしょう。その原因については、次回で深掘りしてみたいと思います。